
――最初に「『ガンダムAGE』のエンディングテーマを」というオファーを聞いた時、どう思われました?
ほんとにビックリしました! お話をいただいたのは今年の6月くらいで、プロデューサーさんから「話したいことがある」と言われて……行ってみたら! そこで作品の資料をいただいて「『ガンダム』の音楽を手がけるのはランティスの夢だから、良い曲を書いて欲しい」と言われ、驚いて5分間くらい喋れなくなりました。
――驚きと感動がいきなり押し寄せて。
はい。私自身も、デビュー10周年を迎えた節目の今年、そんな素敵なお話に巡り会えて本当に嬉しかったんですが、プロデューサーさんのその言葉を聞いて、それ以上に“みんなの夢を背負ってる”ことを実感して、「いつも以上に頑張らなきゃ!」と。たしかにプレッシャーも感じましたけど、それはプラスのプレッシャー。いい緊張感をいただいて、すごく前向きになれました。それに、私もアニソン・シンガーとして実感するんですが、歴史と伝統ある『ガンダム』に関われるのは、本当に限られた人たち。そこで良い曲を残すことが、アニソン・シンガーとしてアニソンをずっと歌ってきた私がやらなきゃならないこと。そしてそこに何か想いを残せたらと思いながら作りました。
――曲作りのコンセプトはプロデューサーさんと相談されたんですか?
そうですね。その打ち合わせで、いくつかのオーダーとキーワードがありました。ひとつは“アニメ本編からそのままエンディング映像に繋がって流れる曲”だということ。もうひとつ、“エンディングテーマではあるけど、オープニングっぽい曲にして欲しい”というオーダーもあり、たくさんアドバイスをいただきました。ただ、その席では私、なんだかふわふわしちゃってて(笑)。ちょっと落ち着いてから、いろいろ向き合おうと思いました。
――栗林さんご自身は『機動戦士ガンダム』シリーズは、よくご存じでしたか?
はい、好きです! 子供の頃は、やはり女の子向けのアニメばかりで、リアルタイムで『ガンダム』は観ていなかったんですが、このお仕事を始めてからいろいろな方に薦められて、大人になって何作品か続けて観ました。最初の『ガンダム』と『Z』『ZZ』、ちっひーさん(米倉千尋)が主題歌を歌われていた『第08MS小隊』や……最近だと『ガンダムW』ですね。『ガンダムW』はちょうど私が、TWO-MIXさんの主題歌「JUST COMMUNICATION」をカバーさせていただく機会があって、歌うからには作品も知りたいなと思って観ました。私が今まで楽曲を担当させてもらった作品も戦うお話が多いですし、『マブラヴ』には戦術機も出てきますから、『ガンダム』の世界観には親しみが持てましたね。
――『ガンダム』シリーズのどこに魅力を感じていますか?
人間ドラマが生々しいところですね。出てくる人たちもみんな、我が道を行く格好良さがあって。
――なかでも好きなキャラクターは?
いちばんインパクトを受けたのはアムロですね。最初に観たのがファーストガンダムだったというのもあるんですが、第1話でアムロが初めてガンダムを操縦するシーンの印象が凄すぎて、観た後で、自分がガンダムに乗らなきゃならない夢を見るほどでした!
――まさに第1話の「ガンダム大地に立つ!!」と同じですね!
そうなんです! 私もガンダムの動かし方が分らなくて、劇中でアムロがやってたみたいに、一生懸命にマニュアルをめくってました(笑)。でも残念ながら……途中で目が覚めてしまったので私のガンダムは大地に立てず、後味が悪く(苦笑)。今回のお話を聞いた時も、その夢を思い出しました。

――「君の中の英雄」は、栗林さんの作詞・作曲ですね。どのように曲作りを始められましたか?
資料としていただいたシナリオを読むところからですね。私が作品に向けて曲を書く時は、シナリオならまず、重要と思ったところを抜き出して、私ノートみたいなものを作るんです。今回も全話ではなかったですが、いつもと同じように『ガンダムAGE』のシナリオを読んで、「ああ、ガンダムだ!!」と思って感動しましたね。どうお伝えすればいいのか難しいんですが……シナリオだけでも、ずっと、これまでのガンダムを観ていた時と同じテンション、同じドキドキ感が続くんです。それくらい、ガンダムらしい濃い内容のお話だったので、「これはすぐに歌詞が書けそう!」と思い、すぐに作詞に取りかかりました。最近は、歌詞よりも曲から先に作り出すことが多かったので、私にとっても新鮮な気持ちになれました。
――歌詞を書く上で、『ガンダムAGE』らしさを特に意識されたところは?
キーワードとしてあったのは、“翻訳されたガンダム”でした。これはプロデューサーさんとの打ち合わせに出てきた言葉。『ガンダムAGE』はけっして子供向けに作られるものではない。今までの『ガンダム』が大人が観るものだとしたら、『ガンダムAGE』はそれを子供でも楽しめるように翻訳したもの、というコンセプトと聞きました。そこで、歌詞にもタイトルにも英語を使わず、日本語だけで書こう。サビも誰でも親しめるキャッチーなものにしよう、と思いました。
――歌詞に出てくる言葉も、とてもシンプルですね。
はい。小中学生でも素直に受け止められて、大人になっても心に残ってくれるような言葉を心掛けながら、まずは、先にレコーディングが予定されていたTVサイズのために、1番の歌詞を書き出しました。
――実際、すぐに歌詞は書けてしまいました?
はい! すんなりと言葉にできました。いつもなら、バラバラに書き留めた歌詞を、曲を作りながらまとめていくんですけど、今回はAメロ、Bメロ、サビの構成を、先に頭の中でまとめてから書いたんです。それも私にとっては、珍しいチャレンジで。歌詞を先に作ると、曲に当てはめて歌詞を書く時よりも言葉を大事にできますし、『ガンダムAGE』はそうしたいタイトルでした。
――歌詞を拝見すると“時代”の流れを感じさせるワードが散りばめられて、世界を形作っているように感じました。
やっぱり、そこがいちばんポイントになったところです。100年間という長い時間で、いろいろなものが受け継がれていく物語。1番は100年の流れの始めのほうで未来を思い、2番は未来から過去を振り返る。そして、その時代の流れの中で、どんな人でも何かキッカケがあれば英雄になれる……自分が変わっていける。そんな、私がいつも自分の曲で描いている想いも込めました。
――なかでも、栗林さんにとって印象的なフレーズは?
2番のサビに「誰にも渡さない… 想い貫け!」という詞があるんですが、ガンダムに乗る男の子たちは、誰もがガンダムに乗ることに誇りを持っていて、自分がいちばん上手く操れるんだという意識を持っている。アムロもそう言ってましたよね? 実は今回のシナリオにもそういう台詞があって、「これがガンダムの歴史なんだな」って思ったんです。ぜひ歌詞にもその気持ちをのせたいと思って、書いたフレーズですね。

――栗林さんご自身のアニソンに賭ける想いにも、重なるところがあるのでは?
はい。私もデビューから10年経って、同じような想いを持つようになったんです。もっと自分にしか歌えない歌を歌いたい、自分にしか書けない曲を書きたい。その意味でも、今ガンダムの曲を書かせていただけたのは、運命的なタイミングかも知れないですね。
――作曲では、何がポイントになりましたか?
まずはキャッチーなメロディーなんですが、特に、サビで音域が広がるように作りたいと思いました。なので、私の曲としてはこれも珍しいんですが、サビ始まりの音程が低いんです。そこから高音に向けて世界が広がる感じ。なので最初にサビのメロディーを考え、けっこう理詰めで、Bメロからサビに繋がるキーや転調を意識しながら、他のパートを作っていましたね。
――そのサビの部分の展開が、メロディーの力強い上昇感を心地よく感じさせながら、シリアスな雰囲気を重ねだしていますね。どのパートのメロディーも印象的です。
よかった! サビなのに暗く始まっちゃうんで、ちょっと心配してたんです(笑)。それぞのパートに、想いの強さや表情を感じていただけたらうれしいですね。
――そして、アレンジを担当されたのは栗林さんのサポートギタリストとしてもおなじみ、GRANRODEOのe-ZUKAこと飯塚昌明さん。
アレンジをお願いする時はいつも、キーボードを使って自分でバッキングを打ち込みして、歌を入れたデモ音源をお渡ししますね。
――飯塚さんに、「こういう感じでアレンジを」というお願いはされたんですか?
いえ! 飯塚さんには、今までたくさんのアレンジをお願いしてますが、いつもしないです。今回も実は、飯塚さんがアレンジを担当されるということを知らずに、曲を書いていたんですよ(笑)。でも毎回、イメージ通りに上げていただけるので、もう、飯塚さんとは音楽で通じ合ってる気がします。すごく飯塚さんらしいと思いましたし、“アニメソングの王道”を守りながら、「これがガンダムの映像に合ったら、すごくステキだろうな」と、聴いた瞬間に楽しみになりました。
――ピアノから始まるドラマティックなイントロを聴いた瞬間に、頭の中に“宇宙”が見えました。メロディーの広がりとアレンジが、イメージぴったりにシンクロしてますね。
そうなんです! 私も、各話ラストの映像と重なってこの曲が流れると聞いたので、切ない始まり方にしたくてメロディーを考えたんです。その気持ちを、飯塚さんが受け取ってくださって、想像以上にパワーアップしていたので私のテンションも上がりました。切なさが倍増していて、すごく嬉しかったです。音楽自体が、映像の演出の一部になってくれる気がしました。
――そこから歌のレコーディングがあったわけですが。
いつも一生懸命歌うんですが、今回はいつも以上に気合いが入りましたね。レコーディングのディレクションもプロデューサーさん自らが担当してくれたんですが、後で聞いたら、私がウォーミングアップもなしに本気で歌い出したので驚いたし、ついていくのが大変だっておっしゃってました(笑)。
――ボーカルでこだわったところはどこですか?
出だしは音程も高いですし、柔らかく始まるので、物語に登場する頑張っている子供たちを包み込むような気持ちで。でも、サビはアニソンらしい力強さが欲しかったし、ここからサビになりますというのが分るようにパワフルに。メロディーもそうですが、歌い方も表情を切り替えることを意識していました。なので、自分が納得できるまで細かいところもリテイクしたし、最後のサビはもう、自分がガンダムに乗っている、くらいの気持ちでしたね(笑)。
――宇宙空間で、ガンダムに乗っている映像が見えました?
はい! 飯塚さんのギターソロで、私にも宇宙が見えました!

――まさに、栗林さんが今まで想いをつぎ込んできた、“アニメソングの王道”をいく仕上がりになりましたね。
そう思います。私、8月3日でデビューから丸10年なんですね。そしてこの曲のレコーディングがその2日後。私にとって「君の中の英雄」は11年目の初めての歌入れでした。この曲は私が今までやってきたことの集大成でもあるし、飯塚さんと一緒に作ってきたアニソンのまとめだし、新しい始まり。レコーディング中もずっと、「今の私に何が残せるんだろう?」と想いながら歌いましたね。そんな素晴らしいタイミングでこの曲をレコーディングできて、本当に幸せです。
――栗林さんの10年の集大成ともなった「君の中の英雄」が、『ガンダムAGE』の物語と同じように、今度は視聴者の皆さんの世代を超え、『ガンダム』シリーズの歴史の中で長く愛される曲になるんでしょうね。
私も、そうなってくれることを祈りながら作り、歌いました。『ガンダムAGE』を観てくれる子供さんたちが、10年、20年経って作品を思い出した時に、この曲のことも一緒に思い出してくれたらものすごく嬉しいですし、大人になっても口ずさんでくれたらと思うと、胸がいっぱいになりますね。
――栗林さんのライブでも、この曲を生で歌ってほしいです。
はい! 10月30日には、「10th Anniversary Live “stories”」というアニバーサリーライブが中野サンプラザであるんですが、まずそこで、お披露目ができたらいいなって。『ガンダムAGE』で私の歌に興味を持ってくださった方にもライブで聴いていただけたら幸せだし、私の想いを全部込めたこの記念の曲を、これからも長く歌い続けていきたいと思います。